旧トランプ政権により実施されたに減税および雇用法(Tax Cuts and Jobs Act =TCJA)は多くの税制改革を含んでいましたが、その中には、 米国外軽課税無形資産所得(Global Intangible Low-Taxed Income =GILTI)、及び米国外無形資産所得(Foreign-Derived Intangible Income = FDII)と呼ばれる米国外投資をされている方々に大きな影響をもたらす改革が含まれていました。これらの内容は分かり難く、弊所のお客様からも数多くのお問い合わせをいたただきました。今回はこれら2点の改革についてサマリーをご案内すると同時に、この2点の税制を更に強化しようとするバイデン政権の構想についても簡単に触れたいと思います。
米国外軽課税無形資産所得(Global Intangible Low-Taxed Income =GILTI)
2017年のTCJAに基づき、2018年の税務年度から、内国歳入法(「IRC」)セクション951A により、米国の株主は、一定の要件を満たした海外法人(Controlled foreign corporation = CFC)が生み出した所得を、自身の申告書で報告することが義務付けられています。またその所得は、後述の計算方法により課税されます。
定義:
米国株主とは、米国外企業の議決権株式の少なくとも10%または米国外国企業の価値の直接的、或いは間接的に10%を保有している、或いは保有していると見做される米国人が該当します。
米国人には、米国市民、米国居住者、米国C法人、S法人、米国で形成されたパートナーシップ、および米国のエステート(故人が残した資産や遺産)、トラスト(資産信託)が含まれます。
CFCは、税務年度中の任意の日に累積的に株式(議決権または価値)の50%超を米国株主が所有する外国法人です。
GILTIは、実際には分配されておらず、実際には無形資産からの収入ではない場合でも、米国の10%以上の株主に CFCの所得が持ち株比率に応じて案分され、それが課税対象になります。 GILTIという言葉の中に、「Intangible 無形」という表現が入っているため、無形資産が生み出す所得だけが課税対象になるように聞こえますが、実態はその他の所得についても課税対象となります。またGILTI税は、2017年12月31日以降に開始する外国法人の課税年度から有効になり、外国法人の税務年度が終了する米国株主の税務年度に適用されます。ただし、CFCの10%未満の米国株主は適用外です。
例1:ある米国の株主が外国企業の議決権株式の10%を所有しているが、残りは米国人以外の株主が所有している場合。この場合は米国人株主の所有割合が50%以下になりますは、この外国企業はCFCに該当せず、米国の株主はGILTI税の対象外となります。
例2:米国人Aが外国企業の議決権株式の5%を所有、米国人Bが10%を所有、更に米国人Cが40%を所有。米国人以外が残り45%を所有しているとします。 GILTIを計算する上では、10%以上を所有している米国人だけが「米国株主」と捉えられますので、この場合、10%所有の米国人Bと40%所有の米国人Cのみが「米国株主」となります。しかしBとCの合計株式所有率は50%(10%+40%)であり、CFCの条件である「50%超」をクリアーしていないため、この外国企業はCFCではなく、米国人A、B、C全て、GILTI税の対象にはなりません。
例3:米国人Aが外国企業の議決権株式の5%を所有し、米国人Bが10%を所有し、米国人Cが45%を所有し、米国人以外が40%を所有しているとします。このシナリオでは、米国人のBとCだけが、10%以上を所有しているため、「米国株主」と見なされ、その合計株式所有割合は55%(10%+ 45%= 55%)となり50%超えるため、この外国企業はCFCと定義されます。また「米国株主」と見做された米国人BとCはGILTI税の対象となりますが、米国人Aは対象外です。
IRCセクション951Aにより、米国法人は自身の会社の法人税申告書にCFCの所得を含めることが義務づけられていますが、IRCセクション250は、米国企業の税負担を軽減するためにGILTI標準控除を提供しています。一般に、セクション250の控除では、会社のGILTI税の50%が控除されますが、2026年以降、この控除は50%から37.5%に減少します。
GILTI税計算:
CFC全体ベースで、CFCの一定の税引後所得(対象所得, tested income)が適格事業資産投資簿価(QBAI: 一定の有形減価償却資産の米国税務上簿価)の10%(みなし無形資産リターン, net DTIR)を超過する部分の額をグローバル無形資産低課税所得(GILTI)として合算課税します。この合算対象額は、セクション250の規定により50%控除され、残りの50%が、現在の連邦法人所得税率21%で課税されます。従って、全体として、現在のGILTI実効税率は10.5%(または21%x 50%)となります。
バイデン大統領の税制構想:
セクション250GILTIの除外が50%から25%に減少
QBAI免税の10%の撤廃
連邦法人所得税率の21%から28%へ引き上げ。
全体として、Biden政権のGILTI実効税率は21%(28%x 75%)となります。
さらに、複数国の外国企業の株を所有している場合、GILTIは現在、すべての外国の利益、損失、および税金を合算して計算されています。ただし、バイデン政権では、GILTIは各国の利益、損失、税金に基づいて算出することを構想としています。従って、複数の国でCFCを所有している米国の株主の場合、株主が世界規模の事業で全体的な損失を被ったとしても、1つの国で収益性の高い事業を行ってい場合、GILTIに基づいて課税される可能性があります。
米国外源泉の無形資産関連所得(Foreign-Derived Intangible Income = FDII):
FDIIとは、米国法人が米国外顧客に対して、有形或いは無形資産の売却、リース、ライセンス、役務提供などを行った際、そこから生じるあらゆる所得を指します。 IRCセクション250により、2017年12月31日以降に開始する課税年度において、米国株主はFDIIから37.5%の控除(2026年以降は21.875%に減額)を認められています。ただし、米国法人の関連者に不動産を売却した場合は、FDIIの対象外。例外は該当物件を関連者に売却した後、非関連者に売却され、かつ該当物件が外国で使用される場合に限ります。
制限:
FDIIは、FDII控除前の当該年度の課税所得までに制限されています。 その年の課税所得を超えるFDIIがあれば、その超過分はFDII控除の対象外になります。ただし、バイデン政権では、FDII控除は撤廃が検討されています。
州税への影響:
一般に、州は外国法人が生み出す所得に課税したり、それに関する控除を認めることはありません。GILTIとFDIIに関しては、カリフォルニアを含むほとんどの州が連邦税法に準拠していません。しかしながら、 積極的なアプローチを取り完全に準拠するか、一部準拠するなど(GILTIのみ準拠し、FDII控除には準拠しない等)、これまでの外国税に関するスタンスとは異なる立場を取る州も多く存在します。
結論:
バイデン政権の税制面での変更が実施された場合、複数の州や多国籍で事業を展開している米国企業は、連邦レベルだけでなく州レベルでも所得税負担の増加を被ることになります。今後の意思決定に際し、オーナー、投資家、および経営陣は、十分な情報収集が今まで以上に必要になる旨ご留意ください。
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