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バイアスとSALYの消去

2021年8月13日

私が新人、それこそ入社1,2年目の時に受けた研修がありました。当時私は20代、まだ学生気分が抜けきれず、研修と聞けば夜に同僚たちと飲んで騒ぐのが楽しく、3日の研修であれば、3日目にもなると二日酔いならぬ三日酔いで研修を受け、お恥ずかしながら講義の内容も頭に入ったのか入っていないのか、と言ったような状態でした。


しかし、その中で一つだけ、今でも覚えているフレーズがあります。"Don't do SALY"というもので、SALYとはSame As Last Yearの略です。去年と同じ仕事をするな、と言う教えでした。私はなるほど、と思ったものの、「去年と同じようにやった方が早いよね…」という声もクラスの中でちらほら聞かれました。会計士の場合、税務申告書を例にすると、作業の流れとしては、お客様とコミュニケーションを取って今年の情報をもらい、去年のワークペーパーを参考にしながら今年の税務申告書を作っていく、ということになります。数字をもらった後は、ただ何も考えずに去年のワークペーパーをそのまま使って仕事をすることも、表面上は可能です。これを毎年百社以上繰り返していく中、ついついSALYに逃げたくなるのが人間の心理です。


私もSALYをしない意義と言うのは、数年経ってからようやく気付きました。多忙を言い訳にSALYに逃げると、自分の力で考えることをしなくなります。そして仕事のオーナーシップ、仕事の意義を見失ってしまうのです。


反復作業の価値と言うのは、「自分の中に基準を作る」と言う所にあると思います。似たような作業を繰り返し行うと、自分の中で仕事がどうあるべきか、という基準が出来ます。そしてその基準から外れたものを見た時に、何かがおかしい、と気づくようになります。ここに気づくようになれば、一定のレベルに達したことになります。しかしまだ十分ではありません。


卓球でオリンピック金メダルに輝いた水谷隼選手は、「普通の選手というのは、『ただ頑張るだけの練習』をする。でも強くなる選手というのは『一本一本考えながらやる練習』をする。同じ練習時間でも効果は全く違うものになる。」と言います。


球を打ち返すという一見単純な練習の中、どうすれば強く、どうすれば速く、どうすれば正確に打ち返すことが出来るのか、彼はひたすら追求を続けます。コーチに言われたから練習をするのではなく、成功したなら成功した理由、失敗したなら失敗した理由を常に考え続け、一度自分で作った基準を打ち破ることで成長を続ける。その繰り返しが一流アスリートを作るのです。


会計業界では「Professional Skepticism」と言います。プロフェッショナルと言うものは、常に自分が見ているものが正しいものなのか、疑う心を持っていなければならない、ということです。会社のオペレーションは本当に去年と一緒なのか、人員構成は変わっていないか、税法は変わっていないか、バイアスを持つことなく、考え続けながら仕事を続けることがプロフェッショナルとされています。それが正しいことなのか、効率的なのか、より良いアウトプットは出ないものか、考え抜いた上でのSALYであれば、それはSALYでは無く、その人がオーナーシップを持つ新しい仕事となるはずです。


そうやって、SALYから抜け出し、自分の仕事を確立することの大事さ。「Don't do SALY.」の一言は、若き日のトレーニングから20年越しに、「バイアスとSALYの消去」として、弊社の中に根付いています。