2024年6月14日
先月、社員たちと「社員が成長する環境とは」についてBeer Bashで話し合い、活発に意見交換をすることが出ました。今回、それをまとめるにあたり、制度設計や技術論の前に、会社における経営者としての物の見方や組織に与える影響を先に残しておきたいと思います。
会社は経営者の考え方に大きく影響されます。というのも、経営者がどのような仕事をしたいか、どのような人たちと働きたいと思っているのか、どこを目指して進んでいくのかなど、経営者の考えがそのまま社風となって現れるからです。また、経営者の人間性も社風になって現れます。例えば、私は元来人と話すのが苦手で、放っておくと部屋に閉じこもって仕事に没頭するタイプです。以前は自分から話しかける機会を作らなかったこともあり、社員に私が考えていることが伝わらず、まとまりの無い会社になっていました。
その反省から、Beer Bashなどを通して積極的に社員達とコミュニケーションをとり、どうしたら皆が納得する良い会社を作っていけるのか、本音で話し合える場を設けました。社員は、議論を通じて弊社のミッション 「人と、会社を強くする」、ビジョン「世界一働きたい会計事務所をつくる」、加えて、技術・サービス・時間・チームワーク・オーナーシップ・営業開発の軸(Axis)からなる経営哲学を社員と共有し、浸透に努めてきました。
経営哲学が浸透して来るにつれ、今度は、経営者のリーダーシップの在り方ついても考える機会が増えてきました。
リーダーシップに関する書籍は色々出版されていると思います。例えば、大手コンサルティング会社のマッキンゼーは、リーダーは生まれつき備わった能力ではなく、努力して身につける技術であると言います。そして、それは4つの行動で現れるそうです。
チームをサポートできること(being supportive)
結果を出すために行動すること(operating with a strong results orientation)
異なる視点を求めること (seeking different perspectives)
効果的に問題を解決すること (solving problems effectively)
確かにこれらの能力を持つ人にはリーダーの資質があり、各項目は技術を獲得していくことにより解決できる問題だと長年思ってきました。そして、そのような上司であるように心がけてきたのですが、半年ほど前に「あなたはどのような経営者になりたいですか?」と問いかけられた時に、はたと立ち止まってしまいました。自分が優れたリーダーでは無いというのは分かっていましたが、その理由が分からなかったからです。例えば、上記の4つの項目は十分に満たしていると思うのですが、それでも何かが欠けていると感じていました。
そのような漠然とした疑問を抱えながら過ごしていたある日、部下と意見が分かれる場面に遭遇しました。事の発端は非常に些細なことでしたが、彼は私の意見よりも自分の意見の方が優れていると主張し、私の意見を聞かずに自分の意見を押し通そうとしました。彼とは、普段から会社のミッション・ビジョン・Axisを共有し、同じ方向に共に歩んできた同志でもあったので、なぜ彼が私の話を聞こうとしないのか、原因はどこにあるのかを考えました。通常、完全に信頼している人の意見は、人は素直に受け入れられるものですが、彼が私の言葉を聞き入れない理由が、私は彼に100%信頼されていないからだと気づきました。同時に、そもそも私自身も彼のことを100%信頼せず、彼が力を発揮する舞台を用意できていなかったことに気づきました。
今回の件は、コックピットパネルと呼ばれる、次世代の経営分析に使うプラットフォームの開発に関する意見の隔たりでした。ご存じの方も多いかと思いますが、弊社は会計事務所の中でも特にITや技術に重きを置いて会社の強みとしてきました。分かりやすい所で言えば、まだクラウドという言葉を誰も知らない十数年前、ソフトウェアをすべてクラウド上にあげて世界中どこからでも経理サービスの提供を可能にし、エクセルでのやり取りが当たり前の時代にウェブフォームからの情報収集と処理を開始しました。私が新しいことに挑戦する度に「それは一体何ですか?本当に出来るんですか?リスクが高すぎる!」と社員たちに猛反対され、辞めていく人もいました。それでも開発したシステムが会社の業務を大幅に改善する未来を信じ、通常業務が終わった後の夜や週末に一人で勉強し、技術的な検証を重ね、大枠を作ってきました。今この世に存在しないもの、技術的に確立されていないものをどれだけ一般の人に説明したところで、共感を得ることは出来ません。現在開発中のコックピットパネルも同じで、最初は誰も、私が何をしているかなど分からない中、夜に週末に、一人で黙々と開発を続け、大枠を作りあげました。黙々と、一人でずっとやって来たからこそ、作ったシステムには思い入れがあります。
今回、意見が衝突した際に彼は「Daiさんがこのプロジェクトに強い思いを持っているのは良く分かっています。でも、僕だってこれを絶対に成功させたいとずっと思ってきたんです。」と主張しました。
私は、その言葉にはっとしました。元々、いつも私は誰も信じてくれない中に一人で開発をしていました。そしてそれに慣れているあまりに、自分のやり方、進め方に固執している所があったのだと思います。しかし、私が開発するシステム、そして会社のビジョンは、もう私一人が信じているものでは無く、そのビジョンを信じ、何とかしたいと思っている部下たちがいるのだと気づきました。
もはや、細かい進め方において私の意見が正しいかどうかなどはどうでも良いことでした。それよりも、私の構想を信じ、このプロジェクトを成功させたいと強く願う部下がいるのであれば、彼が思いっきり活躍する舞台を用意し、彼の成長と成功を信じて託すステージに入って来ていることに気づきました。
マネジメントとは、適材適所で人を配置し、部下の長所を見て生かすことです。しかしリーダーシップとは、部下が持つ短所 ~知識、技術、経験、人間性に至るまでのすべて ~を受け入れ、失敗するリスクも考慮に入れ、それでもなお部下を信じ、託す勇気なのだということにようやく気づきました。
半年前、「あなたはどのような経営者になりたいですか?」という問いかけを頂いた時、同時に「どのような経営者になるにせよ、社員に尊敬される経営者にならなければいけませんよ。」という言葉を頂きました。結局、いまだにどうすれば部下から信頼され、尊敬される経営者になれるのかは分かりません。しかし、私が決めたことは、私が部下に信頼されるより前に部下を信頼し、その失敗のすべて受け入れられる経営者になるということです。
会社は経営者で決まります。社員が成長するために私が用意できる環境とは、本気でこの会社で仕事をし、成長したいと思っている部下がいれば、彼らのことを信じ、サポートし、最終的には失敗すら受け入れる経営者がいる環境です。私自身、まだまだ発展途上の人間なので、常にうまく行く訳ではありませんが、社員の成長のため、これからも全力を尽くしていきたいと思います。
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