2021年12月10日
コロナ禍の中、時々思い出すのは、ちょうど20年前のエンロン事件のことです。ずさんな経営管理を行ったエンロンの破綻を機に、米国ではSOX法が定められ、内部統制が厳しく監査されるようになりました。社内規定が明確で無いと会社が正しく機能しないとされ、社員が守るべき規則が次々に作られていきました。ある程度落ち着いた現在でも、内部統制順守の費用として、毎年平均約$1Mを上場企業は負担しています。
当時は私もUS SOXやJSOXのコンサルティングに従事していたのですが、常に疑問に思っていたことがありました。それは「規則を細かく規定すればするほど、人は規則を遵守し、会社の生産性が上がるものか」と言う点です。その漠然とした疑問は何年も私の頭の片隅にあり、時には他の会計士やマネジメントと話すこともありましたが、誰も明確な答えを教えてくれる人はいませんでした。
私がTOPCを再生すると決めた時、過去に作った内部統制資料に目を通しました。誰が何をやり、それを誰がどうチェックする、という類のことが事細かに書かれていました。しかしこれで会社を創ることが出来るとは思えませんでした。数十ページにわたりびっしりと書かれた文字やマトリックスのすべてを理解し記憶すること自体、私には不可能なことに思えました。
複雑に見えるものほど、引いて大きく見る必要があるものです。そこで成功したと言われる多くの会社が持っている最大公約数とは何かを探すことにしました。考え抜いた末の私の答えは、「経営者が明確なビジョンと正しい哲学を持っていること」「経営者と社員のベクトルが合っていること」、この二つが会社の成功にとって最低限必要な命題だと気づきました。そこで私が弊社の経営哲学 を作るために社員とのBeer Bashを通じて、TOPC Axisを社員たちの言葉から創り出したのは前回書いた通りです。
本来会社が機能するために必要なのは細かい規則ではなく、「社内の信頼関係の構築」であり、「社長のビジョンと哲学の共有」なのです。社長が信頼されていない会社はどれだけ立派な社内規則、行動規範を作っても機能しません。逆に、社長の考えを社員が理解し、その上で「この人であれば信頼できる」と思われている社長が率いていれば、細かい規則は必要ないのです。弊社も、法務上Handbookや細かい規定は存在しますが、実際に普段社員が見ているのは30ほどの項目からなるTOPC Axisのみです。
社長が正しい哲学を持ち、将来のビジョンを描き、それに沿った行動を自ら示し続け、社員に伝わるまで伝え続ける。その哲学とビジョンが正しいものだと伝われば、社員は素直に最善の結果を求めて行動するものです。つまり、経営の本質とはそれだけシンプルなものなのです。
経営に悩む方が犯す一番の過ちは、このシンプルなルールを守る前に、経営計画、市場分析、内部規定など、細かい技術論を先に語り、社員との信頼関係構築を後に持って来ることです。そういう会社は土台が脆く、グラグラと揺れているものです。私は職業会計士であり、数値計画や分析などは得意分野であり重要性は十分に理解しています。しかし、会計士として数百の会社を見て、なお社長の最大の仕事は「明確なビジョンを描き正しい哲学を伝え続けること」であり、経営の本質は「社員との信頼関係を築くこと」であると言い切ります。これは決して社長にだけ当てはまることではありません。上司として、確固たる哲学とビジョンを持ち、それを部下に伝わるまで伝えている。そう言い切れる方がどれだけいるでしょうか?
弊社が「Think Simple」を座標軸に入れているのは、複雑に見えるものでも本質と言えるものは数少ないものだと気づいているからです。しかし同時にシンプルなものほど「頭で分かって行動で示せない」ことが多々あるものです。だから社長とは、自社の経営哲学の体現を行動で示し、社員にビジョンを語り続ける存在で無ければならないのです。
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