2023年3月10日
米国財務会計基準審議会(FASB)は、2006年7月13日に、「法人所得税の不確実性に関する会計処理」に関する解釈指針第48号(以下、「FIN48」という)が公表されて16年ほど経ちました。現在は、Accounting Standards Codification(ASC)の作業により、コード番号を変え、FASB ASC 740-10「Income Taxes」に含まれていますが、未だに新規に進出してくる企業などに、日米の違いとしてよく聞かれる会計基準となりますので、ここにまとめておきます。
焦点となる「不確実な税務ポジション」とは、税務上の取扱いが不明確な項目、又は報告企業と関連税務当局との未解決の紛争に係る項目を指し、通常、税法の解釈もしくは特定の取引に対する税法の適用、又はその両方について不明確な点がある場合に生じます。法人所得税の不確実性の会計処理については、その対象となるタックス・ポジションの評価に
① 認識と、
② 測定
の2 段階法(two-step approach)を用います。
①の認識については、あるタックス・ポジションが、テクニカル面の判断基準に基づき、税務調査時に是認される可能性が more likely than not である場合、企業は、タックス・ポジションが財務諸表に与える影響を当初認識することを差します。FIN 48の対策として、最低限、管理プロセスと管理過程を構築し、文書化し、経営者側の判断によって、不確実な税務ポジションに焦点を当てた、以下の管理目的を確認しておくべきでしょう。
すべての税務申告書に申告、または申告されるであろう重要な税務ポジションは認識されているか
それぞれの重要な税務ポジションにおいて、適正な会計単位が決められているかどうか
実現可能性50%超の税務ポジションのみが認識されているかどうか
実現可能性50%超の税務ポジションのすべてが認識されているかどうか
すべての過去に認識されていない税務ポジションがその後、実現可能性50%超のボーダーラインを満たした場合その最初の報告期間に、認識されているかどうか
すべての過去に認識されていた税務ポジションがその後、実現可能性50%超のボーダーラインを満たさなくなった場合その最初の報告期間に、認識が中止されているかどうか
それぞれの税務ポジションの認識されるメリットの金額が50%を越える可能性の最大額であるかどうか
税務ポジションのメリットの認識方法や測定方法に影響する新たに施行された税法、規則、公判記録などの情報が、時機を逸せずに、そして適正に評価されて認識されているかどうか
税務ポジションのメリットの認識方法と測定方法が、報告時期において経営者側が入手するすべての情報に反映しており、報告時期の後で財務諸表の発行日前に起きた事実、状況、変化を考慮していないかどうか
遅延利息や罰金がすべての不確実な税務ポジションに対して適正に測定され、記録されているかどうか
遅延利息や罰則を含め、認識されずに記録された税務メリットが財務諸表において、適正に表示され、分別され、開示されているかどうか
FIN48によって、財務申告における経営者の主張とは異なるレベルの確率を評価し、いわゆる税務クッションを貸借対照表上に別記することになりますが、すべての重要な税務ポジションをリストアップして、個別に50%の確率を測定することは、決算業務の過程で担当者に大きな負担がかかることがあります。特に移転価格の問題では、明確な方針がない中で、認識や測定に際して難しい判断が要求されるため、認識と測定のプロセスについて、外部の専門家達と協力してその判断に至った経路を文章化しておく必要があります。
②の測定に関して、50%のmore likely than not 基準に関する累積確率モデルを例示すると、下記の通りとなります。
累積で60%の位置にある200,000ドルの見積もりが、50%を超える最大のタックス・ベネフィットの金額になるため、A社は200,000ドルをタックス・ベネフィットとして損益計算書に認識することができます。しかし、A社がこのプロジェクトについて300,000ドルのタックス・ベネフィットを認めていたとすると、残りの100,000ドルに対しては、FIN 48 税務負債を計上することが必要となります。
実際、このような見積もりが必要になるのは、移転価格税制、ネクサスなどを含めた州税、複雑なタックスクレジットなど、係争が起きやすい分野に限られます。そのような際は、税務担当者、監査人などとよく話し合う必要があるでしょう。
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