汲み取る、伝わる
- TOPC Potentia
- 2021年11月9日
- 読了時間: 5分
更新日:7月23日
2021年11月9日

当たり前かも知れませんが、ビジネスの基本はお互いを理解することにあると言えます。それが基本な訳ですが、会社によって業種も、企業文化も、働いている人も、抱えている悩みも違います。会社間でのコミュニケーションも難しいのですが、実は会社内ですら、お互いを理解するのは中々難しいものです。
4年ほど前、当時15人ほどの弊社で、5人が一斉に退社するようなことがありました。何が起きているんだろう、と思いました。そこまで酷い扱いをしているようにも思わない、給料も市場と比較して悪いわけでも無い、しかし彼らは不満を持ち、辞めていきました。原因の一つは、エクセル上での仕事を自社開発のソフトウェアに移行しようとしていたことでした。「ソフトウェアにするのはリスクが高すぎる。エクセルに戻せ!」と、見たことの無いものに対する猜疑心で一杯でした。
しかし、根本的な原因はそこではないことに、実を言うと私は気づいていました。ある日、一人の社員が私のオフィスに来て言いました。「Daiさん、あなたはもっと良いリーダーになる必要があります。」 そして、ある一冊の本を渡してくれました。
本を読みながら、私自身、経営について勉強することも、各社員の成長を考えることも怠っていたことに気づきました。自分がやりたいこと、会社があるべき姿ばかり押しつけて、社員がどう成長したいと思っているのか、十分に理解していなかったのです。おまけに、自分の考えを十分に伝えることすら怠っていたのです。
私は全ての考え方の順番を変えることにしました。まず社長は社員を使って仕事をするもの、という考え方を変え、社長は社員のために仕事をするもの、と考えるようにしました。社員に何をして欲しいかを考える前に、自分が社員に何をしてあげられるのかを考えるようにしました。自分が幾らもらえるかを考える前に、社員に幾ら給料をあげられるかを考えるようにしました。フェアに自分を省みた結果、社長としての能力が低いので私の給料はその後3年間据え置きにしました。もちろん他の社員は昇給していきました。会社の利益から経営陣にボーナスや配当を払うことも廃止しました。社員は社長の利益のために働くのではなく、社員全員の成長と、顧客の成長のために働くべきだと定義したからです。
そして何よりも、社員が仕事についてどう考えているのかを理解するよう、努力を始めました。例えば、「技術を高めるにはどうすれば良いのか」「顧客サービスとはどうあるべきか」などをテーマにとりあげ、社員の有志と金曜日の夜、飲みながら話し合いました。有志と言っても、最初のころは来てくれるのが2、3人で、時には一人しか来ないこともありました。意見がぶつかって言い合いになってしまうこともありました。社員たちにしてみれば、うちの社長は一体何でこんなことを続けているんだろう、と思ったのではないでしょうか。それでも会社の座標軸となるべき哲学を社員と共に作ることが必要だと信じ、ひたすら話し合いを続けました。
半年後、「TOPC Axis」と名付けた会社の経営哲学・座標軸の原型が出来ました。哲学と言いながら、実際には当たり前のことしか書いていません。例えば「基本を外さない」など、呼び方を変えてどこの会社でも、どの経営者でも言っていることです。それでも私にとっては、侃々諤々と社員たちと共に作った、とても大事な言葉です。この一言に、私と社員たちの思いがぎゅっと詰まっています。
しかし、座標軸を作って印刷しただけでは、まだ「伝わる」にはなっていません。そこで、一つ一つの哲学について、日本語と英語で、毎週ローテーションで皆の考えと経験を共有するようにしました。その過程で少しずつ、違った角度からの考えを学び、3週目にサマリーとして全員が英語で学び、認識を共有します。新人は、先輩から色々な考えを学べるメリットがありますが、面白いのが、社長である私が、社員から新たな角度からの視点、気づきをたくさんもらうことです。私一人の考えだけでなく、社員がそれに+αを与えてくれるから、ますます私の考えが進化し、強固になります。ここに、社長が社員の考えを「汲み取る」意義があります。
世の中にはカリスマと言われるリーダーがいて、素晴らしい経営をされています。しかし、世の中にはまた、私のように生まれ持ったカリスマ性が低い経営者もいます。自分に才能が無いからと諦めるのは簡単です。しかし、集まってくれた社員たちのために、全力を尽くすのが社長の使命です。だからこそ、この会社は何を大事にしているのか、どう成長していくのか、社員に理解されるまで何度でも、「伝わる」までずっと伝え続けるのです。
ヘタクソなりに、カリスマ性が無いなりに私がこの会社のリーダーでい続けるのは、私以上に社員全員のことを真剣に考え、私以上に社員全員のために一生懸命に努力をする人はいないからです。少しずつ、思いが伝わるにつれ、社員の考え、行動も変わってきたように感じます。そんな私も、最初のうちは辛くて、経営なんか嫌でしょうがなかったのですが、今は「仕事は楽しいですよ」と言ってくれる社員がいるから、私も仕事が楽しくなり、一生懸命に頑張れます。会社で一番大事なのは、社長のビジョン、思いが社員に伝わることです。社長と社員が一丸となって前に進んでいる会社ほど、強いものはありません。しかし、「伝える」のは簡単ですが、「伝わる」のは簡単ではありません。だからこそ社長は、社員に思いが伝わり、共に成長していけるようになるまで、伝え続けていかなければならないのです。




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