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経営者の視点から ~営業コミッションの在り方について~

2024年2月16日



米国での給与体系について悩む経営者は多くいらっしゃると思いますが、特に、営業コミッションについては良く聞かれる機会があります。その時々でお話ししてはいるのですが、実際にどこまで確実に伝えることが出来ているのか、私自身も曖昧なままでしたので、一度まとめておこうと思います。


給料が社員の最大の関心事の一つであるのは間違いありません。特に米国では、営業はコミッション制を敷いている企業が多いと思います。私は米国で大学教育を受け、すべてのキャリアを米国で築いてきたので、コミッションがあることは当然のことと思ってきました。しかし、経営者として年数を重ねるにつれ、制度自体に対する私の考え方が次第に変化しているのは確かです。


コミッションが強く求められる業界・市場戦略

コミッション制度を考える際に、まず最初に検討すべきことは、自社が属する業界の特性を知ることと、どのような市場戦略を取っていきたいかという所でしょう。コミッション重視の施策を敷くべき業界の例を出すと、保険業界、不動産業界などが挙げられます。なぜかというと、競合他社と比較した際、販売する商品の違いが一目に判別しづらく、営業力こそが会社の生命線となるからです。


また、新市場参入を狙うスタートアップ企業などでは、短期間に高い市場シェアを獲得することが求められることがあります。そのような企業では、例え会社収益が赤字であったとしても、一線級の営業部隊を揃えることが必要となります。リスクの高いスタートアップ企業が一線級の人材を揃えるには、高いコミッションなどのインセンティブを揃えるしかありません。そのような戦略を取っている場合は、投資家たちも赤字が数年続いたとしても営業に高い人件費を使うことに理解を示してくれるものです。


上記のような業界や、市場戦略を取る会社の場合は、一獲千金を狙う猛者たちを惹きつけるためにも高いコミッションを出す必要があるでしょう。


コミッション重視の施策を取らない場合

逆に、営業に対して高いコミッションを支払うことが適さない会社もあります。例えば自社で製品を開発・製造し、市場展開している会社では、製品を販売するのは営業側ですが、性能が高く、品質に信頼性が置ける製品が生まれるのは、開発と製造のお陰だと言えます。さらに、どの製品がどの地域でどう売れて、どう営業したら良いのかを共に考え、適切な人員配置や会社の運営などの心配事を一手に引き受けてくれる経営管理部門や人事部門の存在も忘れてはいけません。製品が多く売れるのは、決して営業の力だけではなく、開発、製造、会社の運営を担う他の社員による多大なサポートがあるからなのです。仮に各部門の能力が等しいとした場合、営業職だけが高い給料をもらえることに他部門の社員は不公平感を感じるでしょうし、経営者はそのような会社を作ってはならないと思います。営業に過度なコミッションを支払うことが、会社全体としてマイナスに働く可能性があるということに留意しておく必要があります。


日本でのマーケットリーダーも、米国では弱者であり得る

弊社のお客様の多くは、日本ではマーケットリーダーであったり、そうで無くても市場でかなりのシェアを獲得しておられますが、米国では市場シェアや知名度が低い場合が多々あります。日本国内で知名度の高いマーケットリーダーが採用広告を出せば、日本中から優秀な人材が応募してくることと思います。しかし、米国では同様にいきません。市場シェアもネームバリューも無い、幾ら稼げるのかさえも分からない弱小企業に対し、腕に覚えのある営業マンがわざわざ応募して来るとは思えません。通常はコミッションが高く、確実に稼げる可能性がある会社に就職することを選ぶでしょう。つまり、弱小企業にとっては、一流のトップセールスマンを雇うことがそもそも難しいと言えるのです。


コミッション重視の戦略を緩める:売上も評価の一部と捉える

ほとんどの会社における人事評価は、売上高だけで決まるわけでは無いと思います。例えば弊社は、技術、サービス、チームワーク、オーナーシップ、時間軸、営業開発の6つの軸で評定しています。基本的に営業職は他部門に比べて営業開発の比重が高くなると思いますが、一口に営業と言っても、仕事の難易度は各案件によって違いますし、会社全体の理解とサポート、仕事やチームにおけるオーナーシップの発揮など、着目すべき評価対象は売上高以外にもあります。売上を出せる社員は優秀な社員ですから、営業実績に対する評価は上がります。しかし、その一方で、売上を上げること以外に会社に貢献していなかったり、逆に仲間の足を引っ張るような行動が見受けられる場合には、他の評価軸を満たしているとは言えません。給料を決定するのがコミッションのみだとしたら、会社の規律や文化に反した行動を取っても、その社員は高い給料をもらえることになってしまいます。一流の営業マンに固執する理由が特段無いのであれば、営業実績(売上)を人事評価全体における一要素として捉え、それ以外の評価軸も加味して上で昇給が決まる制度を採用することも考えられます。例え、二線級の営業マンしか雇うことが出来なかったとしても、「製品は営業が売るから売れるのか、製品が良いから売れるのか」を十分に考え、下記の持続性を加味しながら判断すると良いと思います。


持続性を考える

報酬制度は、何のために幾ら払うのかを明確にすべきですし、その制度自体が会社の文化に合っていなければ長続きしません。


雇用の際に大事なのは、会社の文化と社員のビジョンが合致していることです。自分の能力に自信があり、とにかく稼ぎたい社員であれば、高いコミッション制を掲げる会社に就職するのがベストでしょう。逆にそこまでバリバリ売れる自信はなくても、着実にお客様との信頼関係を築き、開発、製造、経理とも協力しながら仕事をすることに意義を見出す人であれば、例えコミッションが低く設定されていても、自分の意志と合致する企業を選択するでしょう。この様な人材の場合、堅実な仕事ぶりと長期的な雇用が期待できます。社員のビジョンと会社のビジョンがマッチしていることは非常に重要な要素なのです。


また、コミッション制の場合、企業の売上が好調でコミッションが高い時は、社員への報酬もアップするので大抵の社員は喜び、会社に好感を持ちます。しかし、売上が下がり、コミッションも下がれば、あっと言う間に社員のやる気も忠誠心も下がってしまうことが予想されます。コミッション制の比重が高ければ高いほど、また報酬を支払うサイクルが短期間であればあるほど、この傾向が顕著に見られ、企業の業績下降と同時に、営業成績が優秀な人材が辞めて行くというのは往々にして見かけるものです。


短期的な市場浸透戦略を取る場合は致し方ないという側面もありますが、企業の持続的な成長を望むのであれば、コミッションに頼りすぎた給与制度は取らない方が得策かも知れません。


まとめ

米国で営業のコミッションは一般的に使用されている報酬体系です。しかし、すべての業種や企業に適しているという訳ではありません。米国でも、コミッション制を用いない企業が増えてきています。企業は、


  • どの業界で活動しているのか

  • どのような市場戦略を取るのか

  • 自分たちは強者なのか弱者なのか

  • 社員のビジョンと自社のビジョンは合っているのか

  • 売上以外の部分も考慮した評価軸を用いているか

  • 現行の報酬体系は自社の現況に即しているか(持続的に運用できるのか)


など、幾つかの要素を踏まえて、総合的に判断しなければなりません。


ちなみに、誤解しないで欲しいのは、営業成績に対するコミッション度合いを抑えることが給料を抑えることに直結するというわけではありません。経営者は、社員に対して相場に見合った額の給料を払うべきですし、業績の問題から、例え今は満足のいく金額を払えなかったとしても、会社は社員に最善を尽くしてより良い給料を還元し、彼らの労力に報いるため努力をしていくことが、企業としてのあるべき姿だと私は考えます。そして、業界や企業にもよりますが、営業コミッションを重視しすぎない方が結果として会社全体に公平感が広がり、営業職のみならず社員全体の長期的な雇用にもつながることをマネジメントは十分に考慮すべきだと思います。


2024年一月現在における私の考えは上記の通りですが、今後変わらないとは限りません。それは、時代の大きな流れの中で国、民族、文化、企業、そして人が持つ一般常識が少しずつ変化するのと同様に、給与制度も絶対というものは存在せず、変わり続けるものだからです。そのうえで、経営者は自社と自社の社員全員のためにベストな施策を常に考え、実行に移す努力を惜しまない、そのような存在であるべきだと私は思います。






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