OBBBA:FDII、GILTIおよびCFCに関するルール
- TOPC Potentia
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2025年12月11日

2025年7月4日、トランプ大統領は「One Big Beautiful Bill Act(OBBBA)」に署名し、同法が成立しました。同法には数多くの改正項目が含まれますが、本サマリーでは、そのうち国際税務および海外関連のルールに焦点を当て、これらが「Tax Cuts and Jobs Act(TCJA)」で導入された枠組みをどのように修正または置き換えるのかを解説します。
GILTIからNCTIへ ― 新たな合算ベース
TCJAの下では、被支配外国法人(Controlled Foreign Corporation、CFC)の米国株主は、GILTI(Global Intangible Low-Taxed Income)として、CFCの所得の一部を毎年米国の課税所得に含める必要がありました。ここでCFCとは、議決権または価値ベースで50%超が米国株主によって保有されている外国法人(間接保有やみなし保有を含む)を指します。
GILTIの計算は非常に複雑で、各CFCの「テスト所得(tested income)」を算出し、Qualified Business Asset Investment(QBAI)やNet Deemed Tangible Income Return(NDTIR)といった有形資産関連の額を測定し、それらを組み合わせて、米国株主の単一のGILTI合算額を求める仕組みとなっていました。
2025年12月31日以後に開始する課税年度については、OBBBAにより、この仕組みが見直されます。GILTI、NDTIR、QBAIといった概念は、GILTIの合算規定から削除され、代わりにNet CFC Tested Income(NCTI)が導入されます。NCTIとは、所得が発生しているCFCのテスト所得に対する米国株主持分の合計から、損失が発生しているCFCのテスト損失に対する米国株主持分の合計を控除したものです。言い換えると、従来の複雑な「無形資産所得」計算ではなく、海外子会社全体の利益合計から損失合計を差し引くという、より分かりやすいアプローチへ移行することになります。
セクション250 ― FDII・GILTIからFDDEI・NCTIへ
TCJAの下では、内国歳入法セクション250により、米国法人(および一定の場合にはCFC所得を有する米国個人)に対して、次の2種類の所得に関する特別控除が認められていました。
FDII(Foreign-Derived Intangible Income)
GILTI
2026年より前に開始する課税年度については、FDIIの37.5%およびGILTIの50%(一定の配当とみなされる金額を含む)を控除することができましたが、2025年以降に開始する課税年度については、これらの控除率を引き下げるスケジュールが組まれていました。この仕組みの狙いは、輸出関連所得やCFCからの所得に対する実効税率を引き下げ、知的財産や関連利益を米国内に留めるインセンティブを与えることにありました。
OBBBAにより、2025年12月31日以後に開始する課税年度について、この仕組みが再設計されます。FDIIはForeign-Derived Deduction Eligible Income(FDDEI)に置き換えられ、セクション250は、国内法人がFDDEIの33.34%およびNet CFC Tested Income(NCTI)の40%を控除できる、恒久的な控除制度を提供します。
同時に、Deduction Eligible Income(DEI:控除対象所得)の定義が修正され、Deemed Tangible Income Return(DTIR)は廃止されるため、従来のDTIRやQBAIに基づく複雑な計算メカニズムは不要になります。実務的には、輸出関連所得や特定のCFC所得に対する「税率割引」は引き続き得られるものの、そのラベルと控除率が変更され、TCJAで予定されていた段階的な控除縮小ではなく、安定した固定パーセンテージとして位置づけられることになります。
CFCルール ― ルックスルーおよび所有関係
TCJAでは、時限的な「ルックスルー(look-through)」ルールが設けられ、関連するCFC間の配当、利子、賃料、ロイヤルティなどの支払いについて、それらがSubpart F所得に該当せず、かつ米国での事業活動に関連しないアクティブ所得に由来する場合には、受動的所得(Foreign Personal Holding Company Income:FPHCI)として扱われないこととされていました。簡単にいえば、このルールにより、外国グループ内の通常の資金移動が直ちに米国課税の対象となることを防いでいました。このルックスルー・ルールは、もともと2025年で失効する予定でした。
OBBBAは、このルックスルー・ルールを恒久化し、CFCグループ内の資金調達やキャッシュマネジメントに関する長期的な予見可能性を高めます。また、「下方帰属(downward attribution)」に対する制限が復活し、組織階層の下位に位置することのみを理由として外国法人がCFCとみなされるケースは減少します。さらに、米国株主への持分按分(pro rata share)ルールも調整され、Subpart F所得やNCTIがどの米国株主にどのように配分されるのかが変更される可能性があります。
総じて、これらの変更により、CFCグループ内でアクティブな海外収益を再投資しやすくなる一方、多国籍グループは自社グループの所有構造および包括所得の計算を見直し、誰がどの金額を米国で認識することになるのかを確認する必要が生じます。
BEAT ― 税源浸食・濫用防止税
TCJAで導入されたBase Erosion and Anti-Abuse Tax(BEAT)は、外国の関連者に対して多額の損金算入可能な支払い(ロイヤルティ、利子、サービス料など)を行う大企業を対象とする特別税であり、米国の税源が過度に浸食されることを防ぐことを目的としています。一般に、直近3年間の平均年間総収入が5億ドルを超え、かつ「税源浸食割合(base erosion percentage)」が3%以上(銀行または登録証券ディーラーを含むグループでは2%以上)の法人(RIC、REIT、S法人を除く)が対象となります。
BEAT税率は、TCJAの下で初期は10%とされ、2025年以後に開始する課税年度については12.5%に引き上げるスケジュールとなっていました。また、時間の経過とともに、BEAT計算上の通常の法人税負担額の扱いが変更され、税額控除のメリットが徐々に薄まるよう設計されていました。
OBBBAは、この予定されていた軌道を調整します。2025年以後に開始する課税年度については、BEAT税率は12.5%まで引き上げられるのではなく、恒久的に10.5%設定されます。さらに、BEAT負担額を計算する際にも、引き続き税額控除の利用が認められるため、「税額控除が使えなくなっていく」という圧力は和らぎます。
その結果、BEATは引き続き海外関連者への過度な支払いに対するセーフティネットとして機能しつつも、TCJAが当初想定していたよりも負担が緩和された制度となります。
特定外国法人の課税年度
TCJAの下では、特定外国法人(Specified Foreign Corporation、SFC)は、原則として過半数の持分を有する米国株主の課税年度を採用しなければならない一方で、「1か月繰延(one-month deferral)」の選択が認められており、米国株主より1か月前に開始する事業年度を使用することができました。
OBBBAは、この1か月繰延選択を廃止します。そのため、この選択を行っているSFCは、2025年11月30日以後に開始する課税年度について、過半数株主である米国株主と同一の課税年度に合わせる必要があります。これにより、米国側と外国側の報告カレンダーの調整は簡素化されますが、移行期間には、外国法人側で決算期を変更するなど、一時的な実務上の複雑さが生じる可能性があります。
外国税額控除(FTC) ― 控除配分と源泉地
基本的な外国税額控除(Foreign Tax Credit、FTC)の枠組みは、引き続き「二重課税の防止」と「外国税を利用した米国源所得のシェルタリング防止」のバランスを目的とするものとして維持されます。
OBBBAの下では、GILTI/NCTIバスケットに配分できる控除が絞り込まれ、このバスケットに割り当てることができる控除は、NCTIに対するセクション250の控除およびNCTIに直接配賦されるその他の控除に基本的に限定されます。
同時に、OBBBAは在庫の源泉地に関する有利なルールを導入します。すなわち、米国内で生産された在庫を海外で販売して得た所得について、その最大50%までを、外国の事務所または恒久的施設(fixed place of business)の貢献度に応じて、外国源泉所得として扱うことができるようになります。これにより、特に海外販売を行う米国製造業者などにとって、外国税額控除をより有効に活用できる余地が広がります。
みなし外国税額控除 ― 率の引上げと対象範囲の絞り込み
TCJAの下では、CFCからGILTI所得を有する米国法人は、CFCが負担した外国法人税のうち、自社の持分に対応する部分の80%を、みなし外国税額控除(deemed paid FTC)として認識することができました。これにより、二重課税は完全ではないものの、一定程度緩和されていました。
OBBBAの下では、2025年以後の課税年度について、このみなし外国税額控除率が、Net CFC Tested Income(NCTI)に関連する外国税について80%から90%に引き上げられます。その結果、NCTIが米国の課税所得に初めて取り込まれる時点で、より大きな税負担軽減が得られます。
一方で、OBBBAは、既にNCTIとして課税済みの所得が、その後「既課税Net CFC Tested Income」に基づく配当などの形で分配される際には、追加の外国税額控除を認めないと定めています。つまり、包括時点での救済は手厚くなる一方で、それは一度きりであり、後に現金を米国に還流させる段階で二度目の控除(second credit)は認められないという仕組みに整理されます。
まとめ
OBBBAは、TCJAの下で導入された国際税制の枠組みを前提に、これを調整・再設計するものです。GILTIは、CFC全体の利益と損失をネットするNet CFC Tested Income(NCTI)に置き換えられ、セクション250の控除は、FDDEIおよびNCTIに対する固定の恒久的な率として再構成されます。CFCルールでは、ルックスルー・ルールが恒久化される一方で、下方帰属や持分按分に関するルールが引き締められます。BEATは存続しますが、税率は10.5%に固定され、税額控除も引き続き利用可能であるため、当初予定よりも負担は抑えられます。NCTIバスケットに対するFTCのルールは厳格化されますが、海外販売を行う米国メーカーにとって有利となり得る在庫の源泉地ルールが新たに導入されます。最後に、みなし外国税額控除率は包括時点で80%から90%へ引き上げられますが、その後の配当時に追加の控除を受けることはできません。




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